股関節の痛み
当院では股関節の痛みに悩まされている患者さんに対して、大学病院などで股関節専門外来を行ってきた経験から専門的な診断、治療が可能です。
股関節の痛みで悩まれてる方はどうぞご相談ください。
股関節のしくみ
股関節は脚の付け根の部分にあって、骨盤と太ももの骨をつなぐ関節です。
骨盤側がお椀型の受け皿となり、丸い形の大腿骨頭がはまるような形になっています。
受け皿の部分を寛骨臼(かんこつきゅう)といいます。
寛骨臼と大腿骨頭の表面は軟骨でおおわれ、軟骨が表面の滑りを良くし、クッションとして働いて体重などの衝撃を吸収します。
股関節の周囲は筋肉や腱に囲まれて補強され、いろいろな方向に動かすことができます。
股関節には普通に歩くだけでも体重の2倍の力がかかり、走る時やジャンプでは3倍、階段の昇り降りでは4倍、床からの立ち上がりでは6倍の力がかかります。
股関節の病気
股関節に痛みを引き起こす病気には変形性股関節症、特発性大腿骨頭壊死症、股関節唇損傷などがあります。
また、転倒などの衝撃によって起きる大腿骨近位部骨折や恥坐骨骨折などの外傷も股関節の痛みの原因になります。
股関節の痛みの原因となる主な疾患
・変形性股関節症
変形性股関節症とは
股関節が痛くなる代表的な疾患です。股関節の軟骨が徐々にすり減り、進行すると軟骨がなくなってしまい変形へとつながります。
軟骨は関節のクッションの役割をするので、軟骨がすり減ると骨に負担がかかるようになり、痛みの原因となります。
女性に多く、中年以降に発症し、年齢とともに進行します。
変形性股関節症の発症原因
①寛骨臼形成不全
股関節の受け皿である寛骨臼は大腿骨頭に対して屋根の役割をしています。
寛骨臼は大腿骨頭の直径の80%以上をカバーするのですが、カバーの割合が65%以下で受け皿の部分が浅い股関節を寛骨臼形成不全といいます。
寛骨臼形成不全では大腿骨頭の体重がかかる頂点の部分への圧力が高くなり、年齢とともに軟骨がすり減る原因となります。
日本人では寛骨臼形成不全が変形性股関節症の原因となる場合が90%を占めています。
②加齢、肥満、スポーツ、重労働の負担
股関節の形態に異常が無くても、長年股関節に負担がかかり続けると、少しずつ軟骨がすり減ることがあります。
肥満やスポーツ・重労働の負担などが原因となります。
最近では高齢化によって軟骨や骨の強度が低下するのに加えて、腰が曲がり、骨盤が後ろに傾くことで股関節にかかる負担が増え、軟骨がすり減ってしまうことも増えてきています。
変形性股関節症の症状
主な症状は脚の付け根やおしり、太ももの痛みで、立ち上がる際や動き始めに痛みを感じます。
長時間の立ち仕事や歩行の後にも痛みを感じます。
進行すると体重をかけるたびに強い痛みを感じるようになり、次第に股関節の動きが悪くなります。
股関節の動きが悪くなると、靴下の着脱、足の爪切り、しゃがむことが難しくなります。
やがて安静にしている時や夜間にも強い痛みが続くようになり、股関節の変形によって脚が短くなります。
変形性股関節症の診断
股関節の動きや痛みを感じる動作を触診し、X線撮影で診断します。
軟骨の部分はレントゲンに写らないため、寛骨臼と大腿骨頭の隙間が狭くなってきます。
進行すると関節の隙間がなくなり、骨同士があたるようになります。
さらに進行すると関節の周囲に骨棘という突起状の骨が作られ、関節が変形します。
CTやMRIで詳しく調べることもあります。
変形性股関節症の治療
薬物療法、運動療法などの保存療法が中心ですが、それだけでは改善が難しいと判断すれば手術が必要になることがあります。
・保存療法(手術以外の治療法の総称です)
生活の注意点
股関節への負担を減らすことがとても大切です。
靴はクッション性の高いものを選び、ヒールや底が硬い靴は避けます。
歩行時に痛みが強ければ、杖を使用するのが有効です。
杖は股関節への負担を25%減少させることができます。痛い股関節の反対の手で使います。(右の股関節が痛い場合は左手に杖を持ちます)
体重が重たければ、それだけ股関節にかかる負担が増えるため、適正な体重を保つことも大切です。
・薬物療法
痛みが強ければ鎮痛薬の内服や外用薬(湿布薬や塗り薬)を使用します。
薬ではすり減ってしまった軟骨を基に戻すことは出来ませんが、苦痛を取り除くことはできます。
一般的な痛み止め(消炎鎮痛剤)から始め、効果が少ない時は強い痛み止めを使うこともあります。
痛み止めにはたくさんの種類がありますので、効果と副作用を考慮しながら患者さんの状態にあわせて選択します。
運動療法・リハビリテーション
運動療法は、股関節をリラックスさせ、正しく関節を動かすことを目的としています。
運動によって股関節の可動域を広げる効果があり、また筋力をつけることで股関節への負担を減らし、進行を予防することにつながります。
健康ゆすり体操(ジグリング、貧乏ゆすり体操)
健康ゆすり体操とは股関節を小刻みに動かす方法です。
椅子に腰掛けて、股関節と膝を直角に曲げて、足先は床につけたまま踵を浮かせて上下させます。
この運動は貧乏ゆすりに似ていることから、以前は貧乏ゆすり体操と言われていました。
また、海外ではジグリングと言われる体操になります。
1日裁定30分、できれば60分以上行います。
股関節を動かすことによって、関節内にある関節液が軟骨に十分に行き渡って骨に栄養を供給することができ、軟骨が健康に保たれ、痛みの軽減につながります。
診察時に詳しく説明します。
ストレッチ・筋力トレーニング
理学療法士の指導のもと、ストレッチを行っていきます。
痛みが落ち着いてくれば、太ももやお尻など股関節周辺の筋力トレーニングを行います。
筋力を強化すると股関節の負担を減らすことができます。
ただし、軟骨が完全に擦り減ってしまった患者さんに対しては筋力トレーニングが有効ではないこともあるので、患者さんの状態に適したリハビリテーションを行います。
温熱療法
温熱療法とは、温めることで股関節周囲の血流を改善させ、筋肉をほぐして痛みを和らげる治療です。
家庭ではぬるめのお風呂にゆっくり入ることで、効果を得ることができます。
当院では電気刺激、磁気刺激、干渉波、ラジオ波による治療機器がありますので、患者さんの状態にあわせて選択します。
このような保存療法だけでは痛みを改善させることが困難で、歩く時に痛むだけではなく、安静時や夜間にも痛みが強く、日常生活や仕事に支障をきたす場合は手術療法が検討されます。
変形性股関節症の手術療法
骨切り術、人工関節置換術があります。
寛骨臼形成不全があり、軟骨が保たれている若年の方は関節を温存する骨切り術が適応となります。
軟骨が消失するまで進行した場合は人工関節置換術が行われます。
人工股関節置換術は、変形した関節を人工関節(インプラント)に入れ替える手術で、痛みの原因になる部分を取り除くため、痛みの改善に大きく効果があります。
以前は対耐用年数の問題から60歳を過ぎないと手術は勧めないと言われていましたが、現在では耐用年数が向上したため、40~50代の方にも行うことが多いです。
手術後は激しいスポーツでなければ運動も自由にできますし、日常生活の制限もほとんどありません。
大腿骨頭壊死症
大腿骨頭壊死症とは
脚の付け根の部分にあたる大腿骨頭への血流が低下してしまうことで、骨が壊死してしまう疾患です。
大腿骨頭は股関節内に深く納まっているため血管が少なく、血流障害を起こしやすい場所になります。
骨が壊死をすると骨の強度が落ちますが、潰れなければ無症状です。
しかし、壊死した部分が大きいと体重が支えきれなくなって、潰れてしまいます。
この骨が潰れた時に股関節に痛みが生じます。
痛みは比較的急に始まり、強い痛みに場合は歩行困難になることもあります。
骨頭が大きく潰れた場合は、変形性股関節症の様に軟骨がすり減り、股関節の動きが悪くなることもあります。
血流が低下する原因に関しては、アルコールの多飲、ステロイド剤の使用に関連して生じることが多いことが分かっていますが、原因がはっきりしない「特発性」のことも多いです。
大腿骨頚部骨折などの外傷によって血管が傷んでしまい、血流障害をきたして壊死を引き起こすこともあります。
大腿骨頭壊死の診断
レントゲン検査によって壊死の有無を診断します。発症した初期には壊死がレントゲンで見えないため、大腿骨頭壊死を疑った場合はMRIを撮ります。
壊死範囲が大きい程、潰れる可能性が高く、重症となります。
大腿骨頭壊死の治療
保存療法
始めは強い痛みを感じますが、杖を使うなど股関節の負担を減らし、鎮痛剤の内服で経過をみると潰れて痛んだ部分の骨が修復されて痛みが治まる場合も多いです。
男性で骨が丈夫な場合は、壊死せずに残った骨が支えとなり、痛みがなくなることもあります。
しかし、壊死範囲が広い場合や、ステロイドの使用などで骨が弱い場合は、骨が潰れていくことが進行し、多くの場合痛みが治まりません。
体重のかかる荷重部に大きな壊死がある場合、修復は困難となるため、強い痛みが続く場合は手術療法を検討します。
手術療法
手術には骨切り術、人工関節置換術があります。
骨切り術は、骨を切って荷重部に健常な骨をもってくるように移動させ、骨頭が潰れないようにします。
大腿骨内反骨切り術や、大腿骨頭回転骨切り術があります。10代や20代といった年齢が若い場合検討されます。
若くても壊死範囲が広い場合は骨切り術を行うことができません。
また、早く痛みをとって仕事や家庭に戻るために人工関節置換術を選択することもあります。
40代以降の方であれば人工股関節置換術を第一選択にすることが多いです。